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  医師 山内四朗
 

手のしびれ(絞扼性神経障害)について



 手がしびれる病気は沢山あります。脳については、脳腫瘍(のうしゅよう)や脳梗塞(のうこうそく)・脳出血などが原因になります。
 首の病気でも手にしびれが生じます。変形性頚椎症(けいついしょう)、椎間板(ついかんばん)ヘルニア、後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)、脊椎(せきつい)(脊髄) 腫瘍(しゅよう)等といった病気
で、骨、椎間板や腫瘍などが脊髄(せきずい)や神経を圧迫して手がしびれるという患者さんは珍しくあり
ません。 同時にしびれの場所に痛みを伴うことも多く見られます。
 
 首から出た神経は首の前外側で、上腕神経叢(じょうわんしんけいそう)を形成し、3本の神経束(そく)
から手に分布する3つの神経が形成されます。それぞれ橈骨(とうこつ)神経、正中(せいちゅう)神経、
尺骨(しゃっこつ)神経とよばれ、指や手首の運動と手の感覚を司っています。

 これらの神経が首から手へ下降する途中で骨、筋肉、腱膜(けんまく)、靭帯(じんたい)・(すじ)などに
よって圧迫され、絞めつけられると、その先の支配領域にしびれや痛みが生じ、また手の動きも悪くなり
ます。このような症状を絞扼性(こうやくせい)神経障害といい、整形外科の外来で比較的多く見られます。今回はこの絞扼性神経障害について述べたいと思います。



◆橈骨神経は上腕の外側から肘に下降してきますが肘の近くで、運動枝 (筋肉に分布している) である
  後骨間(こうこつかん)神経と知覚枝である橈骨神経浅枝(とうこつしんけいせんし)に分布します。
  運動枝は指を伸ばしたり、手首を反らす神経です。知覚枝は主に手背部の親指、人差し指の知覚に
  関係します。

橈骨神経浅枝麻痺(とうこつしんけいせんしまひ)について
 浅枝は前腕部で椀橈骨筋(わんとうこつきん)の筋膜を貫いて皮下に出てきますが、このとき
肥厚した筋膜によって絞扼される場合があり
ます。典型的な例では、母指、示指の背側に
しびれ、知覚異常があり(図1斜線部)、また
筋膜を貫いて皮下に出てきた部位をハンマー
などで軽く叩くと痛みを異常に強く感じたり、
末梢の手の方向に痛みが放散する症状(Tinel
徴候(チネールちょうこう)、図1×)を認めます。
このようなしびれと叩打痛(こうだつう)を有する
症状をWartenberg症候群(ワルテンべルグ
しょうこうぐん)といいます。この神経は知覚枝で
あり、感覚を司るだけなので手関節、指の動きは
正常です。治療としては肘、前腕、手関節などの
ストレッチ、局所へのステロイド剤の注射などを
行いますが症状が改善しないようなら手術に
よって、絞扼している筋膜を切除し、神経を
開放します。

               図1



◆正中神経は上腕部から肘の前方を通って手のひらに至る神経です。主に指と手首を曲げる作用があり、  指の細かい運動(巧緻《こうち》運動)にも関与しています。また、手のひらと指の知覚を司っている(図2)  のでこの神経が障害されると手が非常に使いにくくなります。また手の筋肉の萎縮と指の変位によって
  扁平な手に なり、「猿手(さるて)」と呼ばれています。(図3)
図2
  図3

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)

 手根管は手首の前方にあって手根骨(しゅこんこつ)と横手根靭帯(おうしゅこんじんたい)からなるトンネルです。
このトンネルには指を曲げる屈筋腱と前腕から下降して
きた正中神経が通過しています。(図4)。このトンネル内の
圧が上昇することによって神経が絞扼され、症状が出現
します。関節リウマチ、結核、人工透析、骨折の変形などが
原因になりますが、最も多いのは手の過度の使用による
炎症です。しかし、原因のはっきりしない場合もあります。

図4

 手根管症候群は絞扼性神経障害の中で最も頻度が高い疾患で、男性1:女性7~8の割合で圧倒的に
女性に多く見られます。中年の女性で手の親指側がしびれ、夜間にしびれが増強するといった場合には、
この病気が考えられます。

 症状として、母指、示指、中指、環指のしびれや痛みがあり(図2)、指の動きが障害されます。このしびれや痛みは明け方に強く、手を振ることで楽になるという特徴があります。また母指の付け根の母指球筋(ぼしきゅうきん)の萎縮(いしゅく)がみられます(猿手)。

 治療としては、手関節の安静を保つこと、
消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤等の内服を
試みますが、3カ月以上経過しても改善がない
場合や筋肉の萎縮、しびれが進行する例には
手術で横手根靭帯を切離します(図5)。
 この手術は比較的簡単にでき、手術後の
経過も一般的に良好です。

図5

ボウラー母指
 母指の付け根の部分で指神経が硬いもので圧迫され、
親指にしびれや痛みを生じるものです。ボーリングのしす
ぎに加えてボール穴と指のサイズの不一致によって圧迫
されることが多いといわれており、親指の付け根部分に
Tinel徴候を認めます(図6)。重症例には手術を要する
ことがあります。

 

図6

回内筋症候群(かいないきんしょうこうぐん)

 肘の前方で円回内筋やその筋膜によって正中神経が
圧迫、絞扼されることが原因です(図7)。肘から前腕部に
かけての痛みや手にしびれを生じます。指の屈曲や前腕
の回内反復動作などが誘引になるといわれていますので、誘引となるような動作を中止し、肘、手関節の安静を保つ
など保存的に治療しますが時に手術にいたることもあり
ます。
図7



◆尺骨神経は上腕部の内側を下降し、肘の内側で上腕骨の骨の窪み(尺骨神経溝)を通り、前腕部から
 手に至ります(図8)。そして手の知覚(図9)と指を広げたり閉じたりする開排運動(かいはいうんどう)に
 関わっています。

図8
 
図9

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
 この尺骨神経溝と靭帯で形成されるトンネルを肘部管
(ちゅうぶかん)といいます。肘部管で神経が絞扼され、
神経が障害されると、手の小指側のしびれと共に筋肉の
萎縮による指の変形を生じます。外観上、鷲の手のように
なるので鉤(かぎ)〔鷲〕爪手(つめて)とよばれます
(図10)。

図10

 肘部管は移動性に乏しいので、
それだけで絞扼の原因になりますが、
その他、肘の変形性関節症、肘の
骨折後の外反変形、ガングリオン
(嚢腫《のうしゅ》)、関節リウマチ、
あるいは職業病などによる神経の
圧迫が誘引になります。手のしびれや、
麻痺が進行するようであれば、早期に
手術をする必要があります。手の筋肉が
萎縮してしまうと回復が困難になるから
です。手術法としては、

 ① 肘部管を形成している靭帯を切離
 ② 神経を剥離(はくり)して前方に移行
 ③ 靭帯を切離、骨の一部を切除して     神経を開放する

などいくつかの方法があります(図11)。手術後の改善率は大体80~90%ぐらいといわれています。

図11

尺骨神経管症候群(しゃっこつしんけいかんしょうこうぐん)
 尺骨神経は手首で骨と靭帯によって形成される神経、血管の通り道(尺骨神経管)を通過します。この
神経管内で神経が圧迫され、絞扼される病気を尺骨神経管症候群といいます。手の麻痺としびれを生じ
ますが、肘部管症候群と異なり、手背部小指側の知覚は正常です。ガングリオン(嚢腫)が原因となること
が多いようです。この疾患はそれほど多いものではありません。


 以上、述べたように、首から上肢、さらに手へ下降してくる橈骨神経、正中神経、尺骨神経はその途中、
肘、前腕、手首等では解剖学的特徴を有する部位を通過しています。その結果、これらの場所で神経が
絞扼され、手のしびれを生じること
がよくみられます。神経組織は障害の程度が進むと元に戻らない非可
逆的状態になって、回復しないことがありますので、早めの診断と治療が大切です。

 


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