院長 山内健輔
 

 

   

 ある日の外来で80歳の女性が来られました。なんでも1週間前に、少し重いものを
持ってから腰が痛くなったようです。起きてしまえば痛くないのですが、起き上がるときや
寝る(寝転がる)ときに痛みがひどいようで、背中をトントンと叩くと響くような痛みを
訴えます。レントゲンでは腰の骨が少し潰れたように見えたため、MRIで精密検査を
行い、骨折と診断した後に入院となりました。


 これは作り話ですが、このような症状で来られる方はたくさんいます。いわゆる背骨の
「圧迫骨折」です。今回はこの骨折について少しお話しさせて頂こうと思います。




 どうして背骨は「圧迫骨折」するのでしょうか?原因として多いのは骨粗鬆症です。
一般的に女性は閉経を迎えてから骨が弱くなります。自覚症状がほとんど出ないまま
進行していきますので、自分が骨粗鬆症だと気が付くのは骨折してから、ということも
多々あります。その場合、多くの方が「ちょっと重いものを待った」「ちょっと尻餅をついた」
ことで骨折しています。


それでは骨粗鬆症がなければ圧迫骨折はしないのでしょうか? 必ずしもそうは言い
切れません。骨の強い男性でも強く転倒すれば骨折することはありますし、例えば
スノーボードなどで着地に失敗して強く尻餅をつくと若い人でも骨折することはあります。




 ところで、どこの骨が圧迫骨折することが多いのでしょうか? 多くの方が「腰が痛い」
と言って臍の裏あたり、いわゆる「腰」に手を当てて教えてくれます。しかし実際には
もっと上の、「背中と腰の中間くらい」で骨折をしていることが多いようです。これは
後方凸(後弯)の背中の骨(胸椎)から、前弯(前方凸)している腰の骨(腰椎)に
続く部位で、カーブが変わっていることが原因です。なので腰が痛いからといって
腰ばかり診察はしないで、もう少し上の方まで広く診る必要があります。





 痛みという症状にもいろいろあります。特徴的なのは「起き上がるときや
寝るときに痛い」という動作時痛です。圧迫骨折とは背骨が潰れることです。
潰れることで骨は噛み込み、それなりに安定します。なのでじっとしていると
それほど痛くありません。ところが体を動かすとこの噛み込みが微妙に動いて
痛みが出ます。ここが安静にしていてもジンジンと痛い手足の骨折と大きく
違うところです。


 他には「トントンと叩くと響くように痛い」という叩打痛があります。
背骨が変形している場合、レントゲンだけでははっきりと骨折があるのか
見分けることが難しいことがあります。こうして叩打痛を確認することで、
圧迫骨折があるのかないのかを見極めることもできます。




 治療はどのようにするのでしょうか。答えは極めて簡単で、寝ているだけです。
背骨はいわば大黒柱です。柱が屋根を支えているように、背骨は上半身の重みを
支えています。そんな背骨が骨折したら、治るまで重みをかけないように
してあげればいいのです。つまり横になって寝ていることです。


 ところがこのような話をすると、多くの方から「そんな安静は出来ません」
と言われます。圧迫骨折をされる方はご高齢の方が多く、その世代の方は
家でおとなしく安静にはしてくれません。少し気になると掃除をしてみたり、
洗濯してみたり。時には仕事に出掛ける子供夫婦のために食事を準備したり、
畑仕事をされる方もいます。一人暮らしの方であれば全て自分でしなければ
ならないため、のんびり寝ていることなどできません。なので、そういう場合には
入院して頂くことが選択肢に挙がります。これは医療としての入院というより、
家庭環境から一旦離れてもらって、しっかり安静にしてもらうための「社会的」
入院という意味合いが強い治療です。


 当院では骨折が判明したら、入院してもしなくても、まずはコルセットを作成します。
そして出来上がるまでは仮のコルセットを装着します。その間はできるだけ安静に
してもらいます。そして出来上がってからも3週間は無理せず寝ていることを
お勧めしています。その間はトイレと食事、筋力が弱らない程度のリハビリを行います。
「寝てばっかりいると歩けなくなるのでは?」とよく質問されますが、そんなことは
ありません。トイレと食事だけでも1日に7~8回は起きて歩くことになるので、
それだけ歩いていればすぐに歩けなくなることはあり得ません。むしろ歩き回る
ことで骨折が治りにくくなったり、痛みが長引いたりすることになります。


 入院された場合は骨粗鬆症の程度を正しく評価して、骨折を治しつつ骨粗鬆症の
治療も同時に行います。最近は、多くの種類の内服や注射がありますので、
再骨折を防ぐためにもしっかり治療を行い、それは退院してからも続けて頂きます。




 それではしっかり治さなかったらどうなるのでしょうか? 安静にしていれば治る、
という程度なら、そんなに心配する必要はないのでしょうか? 答えは「いいえ」です。


 背骨が骨折して潰れると、その一部が後方に飛び出すことがあります。背骨の
すぐ後ろには脊髄という神経の束があり、飛び出た骨が神経を圧迫することで
神経麻痺を生じます。これは骨折してすぐには生じません。骨折しても安静にせず
無理をかけ続けることで少しずつ骨が飛び出し、ある日突然足に力が入らなく
なります。立とうと思っても立てず、寝た状態で足を上げることも出来ません。
こうなると日常生活もままならなくなり、また安静にしていても回復する見込みは
ありませんので、手術を行うことになります。


 また神経は圧迫しなくても、骨折部位がくっつかずに不安定になり、いつまでたっても
腰痛が改善しないこともあります。骨折部で骨がグラグラする「偽関節」という状態です。
こうなるとやはり手術で骨折部を固定しないといけません。


 実際にはこのように手術をしないといけない状況になることは稀ですが、いざ手術
と なると体への大きい負担は避けられません。先に説明したように、コルセットを
してしばらく寝ているだけで手術はほぼ避けられるのですから、これを読んで頂いた
皆さんにもぜひ「安静に」していて欲しいと思います。


 
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次回予告
2015年 10月21
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