院長が話す整形外科の病気

 

  院長 山内健輔
  院長のプロフィールはこちら

手術前後のケアをまるごと考え直してみました  

   

 ERAS(イーラス)、という言葉を聞いたことがある方は少ないと思います。  


 ERASとは「Enhanced Recovery After Surgery」の頭文字をとったもので、術後回復強化と訳されます。つまり手術前後の体調に対し、早期回復につながる手法を取り入れた管理方法のことです。


 ことの初めは2001年、ヨーロッパで静脈経腸栄養学会が開かれ、この時にERASという考え方が発表されました。欧米では主に大腸癌に対して様々な手法を取り入れた結果、手術後の体力が順調に回復し、合併症が減少し入院期間を大幅に短縮することができました。日本でも徐々にERASは広がりつつありますが、まだ十分ではないのが現状です。


 このようにお腹の手術に対して行われた手法ですが、整形外科の手術から考えるとERASはとても有効です。お腹の手術の場合はどうしても手術前後の絶飲食は避けられませんが、お 腹を触らない整形外科の手術の場合は、絶飲食は必ずではありません。手術前であれば全身麻酔に支障がない範囲で食べても問題ないですし、手術後は吐いたりすることがないように気を付ければ、すぐに食べても問題ないからです。


 そこで当院では平成27年7月頃から積極的にERASを行うようになりました。最初は慎重に経過を見ながらの導入でしたが、最近では安心して行えています。




 それでは具体的にどうしているのかを説明したいと思います。  


 まず先程も説明した手術前後の飲水、食事ですが、当院では手術は午後からですので、食事は当日朝に消化のいいお粥を出しています。水分は特殊な経口飲料水を手術3時間前まで飲んでもらっています。手術前の空腹は不安につながり、不安は血圧にも影響しますので、少しでも不安にならないように配慮しています。また術後は口がカラカラになっている人も多く、いきなり水を飲むとむせる人もいるため、あえてよく冷やしたゼリーを始めに飲んでもらっています。むせないことが確認できれば、およそ3時間後くらいで食事を摂ってもらいます。少しでも食事が摂れると元気になりますし、早期回復にもつながります。


 点滴は手術に必要なものです。点滴がないと麻酔をかけることができません。しかし点滴が腕に入っていると、トイレなどちょっとした移動でも邪魔になります。点滴棒を引きずって歩かないといけないからです。また過剰な点滴は体を浮腫ませることになります。そこで当院では手術前の点滴は、手術室入室30分前に、手術後は水分が摂れることができればすぐに外します。体を必要以上に浮腫ませることなく、またベッドで横を向いたりトイレへ行ったりすることも楽になります。




 痛みを抑えることもERASの重要なポイントです。術後の痛みは呼吸や血液の循環、消化への影響が出るからです。これを適切に対処しないと様々な合併症が起こります。痛みを軽減する方法はいくつかありますが、当院では手術終了前から対策を行っています。手術がほぼ終わり傷を縫う前に、切ったところに複数の麻酔薬を混ぜた注射をします。複数の薬を混ぜることからカクテル注射と呼ばれていますが、これを行うことで痛みを大きく抑えることができます。また麻酔科医が全身麻酔をかけてから神経ブロック注射を行い、また覚ましていく過程で必要であれば痛み止めの点滴を行います。病室に戻ってからは、水分が摂れないときは痛み止めの点滴を、摂れるようであれば痛み止めを内服してもらいます。重要なのは痛くなってから対処するのではなく、できる限り痛くなる前、もしくは痛みが出始めたときに対処することです。  


 術後にいつまでも床上安静にしていると筋力が落ちてしまいます。一旦落ちた筋力を戻すには、その倍以上の日数がかかります。痛みの範囲内で積極的にリハビリを行い、筋力を維持することが大切です。当院では手術翌日からリハビリを開始しています。手術の内容にもよりますが、可能であればどんどん動かす、または歩いてもらいます。特に足の手術の場合は過度の安静で血栓ができることもありますので、歩くことで合併症を防ぐことができます。


 上記の手法は当院で行っているERASのまだ一部ですが、いくつかを紹介させて頂きました。整形外科領域で積極的にERASを行っている施設は少ないため、当院では試行錯誤しながらも工夫しつつ色々な手法を実践しています。しかし手術の時間や内容、年齢、体力などによっては全部を行えないこともあります。


 手術前後は不安や疼痛、不自由なことがあると思いますが、これらに対して積極的に対処していますので、ご不明な点があれ



 
過去の掲載内容をご覧になりたい方は
こちらをクリックしてください
バックナンバー

 
医師が話す整形外科の病気をご覧になりたい方は
こちらをクリックしてください
医師が話す整形外科の病気


Topに戻る
   
     
2003 Yamauchi Seikei Geka Allright Reserved