院長が話す整形外科の病気

 

  院長 山内健輔
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新しい創傷処置について  

   

 「キズパワーパッド」という絆創膏のCMを見たことはありますか?
怪我をした子供の膝にお母さんがその絆創膏を貼ると、数日でプクプクと膨れてきて
治ってしまうというCMです。私はこのCMを見た時に、とうとうこんなに素晴らしい商品が
出たか、と思いました。



 皆さんの知っている傷の処置とはどういうものでしょうか。ここではいわゆる擦り傷に
ついて思い出して欲しいのですが、①消毒液を塗って ②清潔なガーゼを当てて、
次の日に ③そのガーゼを剥がしてまた新しいガーゼを当てる。そうこうしているうちに
傷は乾いて ④カサブタとなり、なんとなく治ったことになって・・・こんな感じだったのでは
ないでしょうか?



 このような処置の仕方は19世紀後半、リスターという医師によって提案されました。
まだ感染に関する知識の乏しい時代だったこともあり、傷に消毒液を直接塗ることで
細菌を除去し、細菌の繁殖を防ぐために創を乾燥させることは当時としては極めて
画期的で、これによって創が感染する確率は大きく減少し、医学に多大なる貢献を
しました。しかし時代は変わって今は21世紀。医学のレベルは格段に向上しています。
いつまでもこの方法が最良とは限りません。ではどこがどのように良くないのでしょうか?
先に記した番号に沿って説明したいと思います。



①消毒液を塗る

 傷に直接消毒液を塗ってはいけません。消毒液は確かに細菌を殺しますが、
同時に治ろうとしている皮膚の細胞も痛めつけてしまいます。これでは治そうと
しているのか治らないようにしているのかわかりません。傷は砂などの異物を
取り除くために綺麗な水で洗い流すだけでいいのです。そしてここでの“綺麗な
水”とは生理食塩水もしくは水道水のことです。日本の水道は浄化設備が
きちんとしているため非常に綺麗です。飲んでお腹を壊す人はいませんね。
なので傷の洗浄に使用してもまったく問題ありません。


②清潔なガーゼを当てる

 ガーゼを当てることは必ずしも悪いことではありません。しかしこれにより
傷が 乾燥してしまうので、やはり傷を治そうとする細胞が死んでしまいます。
細胞はしっとりとした場所(湿潤環境)でこそ元気になり、傷を早く治して
くれます。これは口の中の傷が知らないうちに治ってしまうことと同じです。
カラカラに乾かしもせず、浸出液でベトベトにもならないような、適度に水分を
吸ってくれるような素材がいいですね。


③ガーゼを剥がして新しいガーゼを当てる

 ガーゼを1日貼っておくと傷が乾燥し、翌日ガーゼを剥がすと「痛い!」と
思ったことがあるかと思います。治そうとしてくれている細胞がガーゼと一緒に
引き剥がされてしまうので痛みが出ます。血も出ます。傷にくっつかない素材が
望ましいですね。


④カサブタ

 カサブタ=治癒、ではありません。カサブタは乾いて死んでしまった細胞の
集まりです。確かにカサブタが出来れば入浴できるようになりますが、時に
痛みを認めることがあります。 とくに手の甲に出来たカサブタは傷が引き
つれて痛いことがあります。こういう場合にはあえてカサブタを取ってしまう
こともあります。



 山内整形外科ではこれらの問題を解決するために「創傷被覆材(そうしょうひふくざい)」
というものを使っています。 これは柔らかい半透明のシールのようなもので、傷に直接
貼り付けます。 その最大の特徴は、「傷からの水分を“適度に”吸収して湿潤環境を作る」
ということです。 多すぎず少なすぎず、適度に湿った環境を作ることで細胞を元気にし、
本来皮膚が持っている「治る力」を最大限に引き出すのです。 この創傷被覆材を用いた
実際の処置の仕方ですが、まず傷を確認し、砂粒などが入っているようであれば水道水で
洗浄します。そして先程の創傷被覆材を当てます。 これだけでは水に濡らせずシャワーを
浴びることができませんので、その上から透明な防水シールを貼ります。 これで終了です。次に傷を確認するのは2、3日後で、しかも防水シールを剥がさず観察して特に問題が
なければそのままにします。 ガーゼのように毎日通院して貼り直しをする必要はない
のです。 水分が多すぎて創傷被覆材がジュクジュクになっている場合だけはすぐに
交換 しますが、このときはガーゼを剥がすときのような痛みは全くありません。 こうして
1~2週間もすれば大抵の傷は治ってしまいます。



 現在、山内整形外科ではこのような創傷被覆材を用いて治療を行っていますが、
全ての傷に対してこのような処置を行うわけではありません。縫わなくてはいけない
ような傷が開いているような場合には、やはり縫ってしまったほうが治りは綺麗で
早いです。縫うことが出来ないような、例えば表面の皮膚が削れてなくなってしまって
いるような場合に最も適していると言えます。ただし皮膚の損傷の程度、傷の深さ
などにより、治癒までにかなりの期間を要することもありますので、疑問に思うことが
あれば気軽にご相談下さい。




 
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