院長が話す整形外科の病気

 
 
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医師が話す整形外科の病気

  院長 山内健輔
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膝の人工関節について~続報~  

 前回、膝の人工関節のお話をしましたが、今年の3月10日に当院で最初の
人工関節置換術が無事に行われましたので、今回はその手術に至るまでの
ことを続報としてお伝えしようと思います。




 現在の新病院が建つ前から、山内整形外科では人工関節の手術に対応
できるように準備を行ってきました。私は県立病院で執刀する傍ら、神戸の
「あんしんクリニック」まで時々研修に行っていました。その病院ではそれぞれの
先生が自分の専門の手術だけを頻繁に行っているため、手術はとてもスムーズ
です。私はその一人の先生を頼り、これまで何度か実際に助手として手術に入り、
その都度手術の流れや工夫するところ、注意すべきところを教えて頂きました。
そしてこれらの経験を生かしてこれまで手術を行って来ました。そしてホームページ
でもお知らせしたように、オーストラリアでの海外研修にも参加しました。しかし
手術は医師だけが行うものではありません。助手や器械出し、外回りの看護師、
リハビリスタッフも人工関節の手術を熟知していなければいけません。そこで
まずは昨年の秋に看護師2人、麻酔担当の北川潤先生と一緒に再びその病院に
研修に行きました。その後は当院で人工関節を行う場合の入院から退院までの
流れを見直し、必要だと思われた以下の処置や検査を始めました。




①「自己血輸血」
人工関節の手術を行う2週間前から自分の血液を800ml貯めておいて、
手術の時にその血液を輸血(返血)します。戻す血液は自分のものですから感染などの
心配はありません。


②「心臓超音波検査」
心臓は身体の要。しっかりと動いていない、つまり心不全と言われるような
状態では、手術中や手術後に合併症が出てしまいます。それを未然に防ぐ
ためには、手術前に心臓の機能をしっかり評価しておく必要があります。


③「下肢血管超音波検査」
手術した後には血液の流れが滞り、血栓ができることがあります。この
合併症を未然に防ぐには、早期に診断し、症状が出る前に治療を行う
必要があります。超音波なのでレントゲンのような被曝の心配はなく、
しかも検査中はまったく痛みがありません。




 これらには担当の看護師を決め、勉強会を開いたり講師を呼んだりして
その手技に習熟してもらいました。下肢血管エコーについては東京まで
講習を受けに行き、自己血輸血に関しては日本赤十字病院の血液センター
の方に実際に来て講習会を開いてもらいました。そうして体制がしっかりと
整ったところで、その患者さんの手術日が決まりました。


 今回人工関節の手術を行った患者さんは、実は私が県立病院時代に
右膝の手術を行なっており、その後の具合が非常に良かったということで、
今回は左膝をと手術を希望されました。前述したような術前検査、自己血
採血などを行い、レントゲンの画像から手術を想定した計画を立て、また
麻酔担当の北川先生と全身状態の評価を行って手術に臨みました。
現在その患者さんは杖を使わなくてもいいほど歩行が安定し、長時間
立っていられるようになったことで家事がスムーズに行え、今までは
通院にタクシーを利用されていたのが、徒歩で来られるようになっています。


 このように順調に退院してもらえることができたのは、1年以上かけて
行われた勉強会やプロジェクトに対し、皆が積極的に取り組んでくれた
結果だと思っています。今後はさらに勉強会を重ね、神戸以外の病院にも
研修に行って新しい知識を吸収することを予定しています。




 話は少しずれますが、今回の手術で初めて術後の痛み対策として
「カクテル療法」を取り入れました。


 人工関節の手術は全身麻酔にて行い、その間は眠っていますので痛みが
ありません。しかし手術が終わって目が覚めると痛みを感じてしまいます。
これに対して一般的には腰に麻酔のチューブを入れて持続麻酔をしたり
(硬膜外麻酔)、手術後に痛み止めの注射や坐薬を使ったりすることで
対処します。しかし硬膜外麻酔は出血などの合併症の可能性があったり、
麻酔の効果がいまひとつだったりすることがあります。また術後の痛み
止めは「痛くなったら」する処置であり、痛みが出てから行うものです。
このカクテル療法というのは複数の痛み止めの薬剤を混ぜて(カクテル)、
手術が終わる少し前に筋肉などの切ったところに直接注射をする方法です。
傷を縫う時に麻酔するのに似ていますが、もう少し強力な麻酔薬を複数
使用することで長時間劇的な効果が得られます。これによりこの患者さんは
ほとんど痛みが出ませんでした。現在は人工関節の手術だけでなく、他の
ほとんどの手術にも行っています。




 人工関節置換術は決して簡単な手術ではありません。危険なことや合併症は
もちろんあります。ただ、膝が痛いということで生活に不自由さを感じているので
あれば、“生活の質を救う”方法の一つとして、この手術はすでに全国で何万例も
行われています。行きたいところに行き、したいことをする。このような当たり前の
ことができるように、当院が少しでも協力させてもらえればいいと思っています。



   
     
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