院長が話す整形外科の病気

 
 
医師が話す整形外科の病気をご覧になりたい方は
こちらをクリックしてください
医師が話す整形外科の病気

  院長 山内健輔
  院長のプローフィールはこちら

膝の人工関節の話  


 人工関節って知っていますか? 知らない人にとっては「なにそれ?」という
感じでしょうし、知っている人には怖い手術だという印象でしょうか。今回お話を
するのは、そんな人工関節、とくに膝の人工関節の話です。




 人工膝関節置換術。正式にはこのように言います。“膝”の“関節”を“人工(物)”に
“置き換える”。つまり傷んだ関節を切除し、人工物に置き換えて元のきれいな膝に
戻すということです。




 若い時から重いものを持ったり長距離を歩いたりしていると、少しずつ膝の軟骨が
すり減って軟骨の下の骨が露出してきます。こうなると膝の曲げ伸ばしをする際に
骨同士が直接接触するようになり、その摩擦から炎症がおき痛みを認めるように
なります。一般的な経過としては、まず膝の内側が痛くなり膝裏が突っ張ってきます。
徐々に正座が困難となり、痛くて立ち上がりや階段の昇り降りが難しくなります。
変形性膝関節症と診断される状態です。


 これに対する治療法としては、安静、薬、湿布、リハビリ、注射などがあります。
これらを状態に合わせて適宜使用することで疼痛を改善し、元の日常生活への
復帰を可能とします。ただし、残念ながら十分な効果が得られないこともあります。
それはこれらの治療法ではこのすり減った軟骨を再生させるだけの力がないから
です。あくまでも症状の進行予防、疼痛緩和が目的と言えます。



 そこで根本的な治療方法として人工膝関節置換術という手術があります。


 この手術では大腿骨・脛骨・膝蓋骨がそれぞれ向かい合っている関節部分の骨や
軟骨を切除し、人工物でフタをします。これにより歩行しても金属同士が直接接触
するため、痛みなく歩くことができます。


 この手術のメリットはもう一つあります。それは変形した下肢をまっすぐにできる
ことです。若かったときはまっすぐだった下肢は少しずつ変形し、両膝を揃えようと
してもその間に大きな隙間が出来ます。これはO脚と言われる状態で、外側より
内側の軟骨がよくすり減るために起こります。手術では内側・外側がほぼ均等に
なるように計算して骨を切ることで、手術後には下肢が真っ直ぐになります。


 実はこの手術が開発されてから、すでに50年以上が経過しています。開発当初の
機種はお世辞にもいい出来のものとは言えませんでした。それはその当時の技術の
レベルを考えれば仕方がなかったことです。しかしその後は多くの医師、研究者に
よって何度も何度も改良が加えられ、現在ではほぼ完成されたものとなっています。
人工物は多くの種類の金属から適正な組み合わせで作成し、耐用年数は30年以上と
なりました。また歩行動態を解析した結果から生み出されたその形状により滑らかな
伸屈曲が可能となっており、人工関節は現在の最新技術の結晶と言えます。




 さて、人工膝関節置換術は現在どれくらい行われているのでしょうか。調べて
みたところ日本国内だけでも年間7万件になり、現在も毎年増え続けています。
では、どうして「怖い」という印象が先行する人工関節がこのようにたくさん
行われているのでしょうか。その答えはずばり、痛みがほぼなくなるからです。
先に紹介したように、傷んだ軟骨を完全に切除してから人工物に置き換えるので、
術後はどう動かしても骨同士が接触することはありません。手術を受けるまでは
膝が痛いことで外出を控えていた人は、手術後は積極的に出掛けられるように
なっています。ちょっとした散歩や畑仕事なども、手術前は痛みがあって
出来なかった人が安心して出来るようになっています。




 人工膝関節置換術は心臓や脳の病気に行う手術のように、“命を救う”という
わけではありません。それでは、膝が痛く外出を控えている方、したい畑仕事を
諦めている方に行う手術としてはどうでしょうか。生活が制限されていると考えれば、
“生活の質を救う”手術と位置付けられます。行きたいところに行き、したいことをする。
このような当たり前のことを可能にするのが人工膝関節置換術なのです。


 現在、山内整形外科は新規開院に向けて準備中です。新しい病院では人工関節の
手術に対応できるようになります。膝の痛みで困っている方の“生活の質”を少しでも
救うことができればいいと考えていますので、お困りの方は一度相談に来てみてください。



 

術後のレントゲンです(左は正面から、右は側面から)。
金属は医療用のセメントで強固に固定されるので、術後はすぐに歩行練習をすることができます。



   
     
2003 Yamauchi Seikei Geka Allright Reserved