医師が話す整形外科の病気

 
 
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  医師 山内四朗
今回は医師 山内四朗が話す…
 

   

 2020年はオリンピックイヤーとなる筈でしたが、3月になって、新型コロナウィルス
(COVIT-19)のパンデミックにより急遽、延期になりました。この病気は高年齢者の
致死率が高いといわれています。



 高齢のOさん、1年ほど前までは元気に外来に通院されておられましたが、
今年になって急に要介護3となり施設へ入所されました。
年を取れば身体能力が低下し、病気にかかりやすくなります。何等かの原因で
急に症状が悪化することもあります。やむを得えないことかもしれません。また、
癌や成人病(糖尿病、高血圧、心疾患、脳疾患、メタボリックシンドローム)、骨の変形、
関節の変形や、症状が現れ始めます。当院に通院されている患者さんも多種類の
薬を服用している方がおられます。多病の方も多いのですが、それでも日本人の
平均寿命は男性81歳、女性87歳と毎年少しずつ延びています。また、平均余命も
延びています(表1)。平均余命とは、現在の年齢からあと何年生きるかという
期待値ですが、例えば、70歳の男性では今後約16年、86歳迄、女性では20年、
90歳迄、また75歳の例では男性は87歳、女性は91歳まで生きるということに
なっています。


   
  表1  


 健康寿命というのは「痛みや障害が無く、健康上の問題で日常生活が制限される
ことなく自立している期間、要支援や、要介護に至る前の期間」とされています。
福井県の場合、男性72歳、女性では75歳となっていて、70歳代前半で何らかの
障害が出始めるということになります。平均余命とされる年齢迄には十数年の
期間がありますので、その間を健康に過ごすということを考えていかなければ
なりません。高齢になったらどうすればこの健康寿命を延ばせるかということが
とても大事です。



 平均寿命が延び、人口の高齢化に伴って、社会的な問題が発生します。
西暦2025年には、団塊の世代(戦後のベビーブーマー)が75歳を超えて国民の
4人に1人以上が後期高齢者になり、その数は3657万人といわれています。
高齢者が急激に増えるということは、障害や病気を持つ高齢者も激増すると
いうことです。今までに日本で誰もが経験したことのない超高齢化社会が
到来しつつあるのです。



 一方、少子化の影響でナースは25万人不足、介護職員も大幅に減少し、
34万人不足するともいわれています。その結果、医療と介護における
人的サービスが大幅に不足する恐れがあり、医療と介護などの社会保障を
どう担保するかということが急務となっていて、私たちは所謂「2025年問題」と
呼んでいます。
社会保障の財政を安定させたい財務省は国民の負担増とサービス抑制を、
経済成長を望む経産省は働き方改革のもと、高齢者や子育て中の女性にも
多く働いてもらって個人消費を増やし、また人手不足も補いたい思惑があります。
定年後を楽に過ごす楽隠居という言葉はもはや死語になり、高齢者は自分の
健康は自分で守るということが必要な社会になってくるのです。



 人が移動する時には体を支える「骨」、衝撃を吸収する椎間板や関節の「軟骨」、
関節や背骨を曲げ伸ばしする「筋肉や神経」が必要です(図1)。骨や、軟骨、筋肉、
神経等の機能が低下すると、膝や腰の痛み、下肢の筋力低下、柔軟性の低下、
姿勢変化、バランス低下等の症状が出てきます。これらの症状は医学的に
ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)と呼ばれています。また、症状が進行し、
悪化すると骨粗鬆症、変形性関節症、腰や首等の脊椎の病気になります。
更に、介護が必要になったものを「運動器不安定症」といい、社会への参加活動や、
日常の生活動作も困難となって、自立した生活が出来なくなります。


   
  図1  



 高齢になると、誰でも骨が弱くなって、骨密度が低下します。更に低下して、
30歳前後の若年者の70%以下になった場合を骨粗鬆症といいます。
この病気を 生じる因子は色々ありますが、特に女性ホルモン(エストロゲン)の
低下が原因です(図2)。そのため閉経期後の高齢の女性に多く見られ、年齢と共に
進行します。背骨がつぶれてその高さが低くなるので、背中が丸くなったり、身長が
低くなります(図3)。骨粗鬆症が進むと、骨折する危険があり、特に多い部位は
股の付け根(股関節)、手首(橈骨遠位)、肩(上腕骨)、背骨などです。部位、
骨折の具合によっては手術を必要としますが完治しない場合もあり、特に
股関節の場合、機能が低下して運動器不安定症になる危険があります。
骨粗鬆症に対しては、内服薬、注射薬など多くの薬剤がありますが、骨折を
完全に予防することは出来ていません。軽い運動によって骨密度が上がることが
報告されています。                


     
  図2   図3  


 高齢化とともに、筋肉もその筋量、筋力の低下が生じます。70歳代以降になると、
筋肉の量が減少し始め、80歳代には約半数になるといわれています。筋肉が
減った状態をサルコペニアと言いますが、栄養状態や病気によってより減少化が
進みます(図4)。サルコペニアがひどくなると手足に力が入りにくくなるので
自立した生活ができなくなり、介護を要することがあります。骨と同様に、
運動によって筋肉が増えることが分かっていますので積極的に日常生活の中に
運動を取り入れてみたいものです。    


   
  図4  



 運動には100メートル走などの激しい運動「無酸素運動」と、ウオーキングや、
ジョギングなどのゆっくりした運動があります。激しい運動は酸素を消費しませんが、
ゆっくりした運動は酸素を消費してグルコース、乳酸、脂肪などを分解します。
このゆっくりした運動が「有酸素運動」です。心肺機能を高めて酸素を体の
隅々まで行きわたらせ体を活性化しますので、心臓病や糖尿病、その他の
成人病(生活習慣病)の予防と治療に推奨されています。また免疫機能を
高めるとも言われています。骨粗鬆症や、関節や背骨の変形した方、筋肉の
衰えたサルコペニアの高齢者の方々の生活動作の維持、向上にもこのゆっくりした
「有酸素運動」が適しています。
今年2月の福井新聞に、1日8,000歩、早歩き20分の組み合わせで病気発生率が
10分の1に低下したという記事が出ていました。骨や筋肉に対してだけでなく、
癌や成人病(生活習慣病)、認知症、「うつ」、などに効果があると報告されています。





 ダイエットにも有酸素運動が適しています。食事制限と共に行うと更に効果が
上がります。有酸素運動によってどのくらいカロリーを消費するかという計算は
少し難しいのですが、1・05×メッツ・時・×体重という式で算出します(図5)。
メッツとは運動の強さの単位で、歩行の場合での大体の目安は、「普通歩行」で
3・0メッツ、「速足」で4・0メッツ位に相当します。
例えば、体重60㎏の人が「速足」(1時間約5㎞)で1時間歩いた場合、運動の強さは
4・0メッツなので消費エネルギーは約252キロカロリーになります。
買い物などのような「普通歩行」では3・0メッツなので1時間歩いた場合は、
約190キロカロリーです。この程度の運動で大体ケーキ1個分に相当する
カロリーが消費されたことになります。 どのような運動を選ぶかは個人の
健康状態に応じて、医師などによる運動処方が必要です。高齢者では腰、膝への
負担を減らすため、水中での運動やウオーキング等の有酸素運動が適しています。
ウオーキングの場合、「普通歩行」ないし、「やや速足」で週2~3回、30分~60分間、
運動強度として3・0メッツ~4・0メッツの範囲で行うのが良いでしょう。強弱を
組み合わせたり、酸素をより多く取り入れられる腹式呼吸も加味します。
継続して行うことで心肺機能を高め、筋肉や骨の強化も得られます。運動時には
心拍数も上がりますので、心臓に異常のある方は脈拍数が多くとも1分間100以上に
ならないように注意しましょう。


   
  図5  


 高齢者は多くの病気、障害をもっていますが、平均余命も延びて長生きするように
なっています。私たちの生活の中に自分の適した、好みの運動を取り入れて、
健康寿命を延伸させ、自立した健康な生活を送りたいものです。私もウオーキングや、
バットの素振りなどをして何とか自立した生活ができているように思っています。


参考資料
福井新聞 令和2年2月14日版
厚生労働省資料
日本医師会 雑誌第144巻・特別号(1)



 
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