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  医師 山内四朗
 

ロコモティブシンドローム




 Aさんは75歳の女性で市内に一人暮らしをしています。勿論親族として実の娘さんも
おりますが、他家へ嫁いで同居しておりません。今年の冬、買い物に近くのスーパーへ
行ったとき、雪道ですべり、転倒しました。

腰痛が強かったのですが、たいしたことはないだろうと思い、湿布をして様子を見て
いましたが、一向に痛みが止まりません。それどころか次第に腰痛が強くなり、特に
寝起きの際に痛みが強く、日常生活も困難になってきました。ご主人が亡くなってから
5年たちますが、一人の食事は味気なく、食欲も乏しくなり、食生活も充分でなかった
ようです。腰痛のため、更に食欲も減退し、少し体重も減少してきたようでした。

困り果てたAさんは娘さんを呼び、近くの整形外科へ連れて行ってもらい、診察を受ける
ことにしました。その結果、腰の骨が骨折している事が判明したのです。自宅で生活を
して、骨折の治療を行うことは困難でしたので、入院し、治療を受けることにしたのです。
入院して種々検査をしてもらうと、骨密度がかなり低下し、また血液中のアルブミンも
減少していました。脱水症状もあったようです。コルセットやお薬、リハビリなどで、一ヶ
月後には、腰痛はかなり改善してきたのですが、下肢の力も弱って、歩行も覚束なく、
自宅での一人暮らしは困難で、どうしても他人の介護が必要な状態となりました。



 このAさんのような方が最近、 多く
みられることにお気づきでしょうか。
私達整形外科医は、Aさんのこの
ような症状を「運動器不安定症」と
よんでいます。すなわち、65歳
以上で、日常生活自立度が低下し、
脊椎や関節の病気などをもって
いて、運動機能が落ちているような
場合です。 (図1)
 


(図1)




 そして、この運動器不安定症に
なる前の状態をロコモティブシンド
ローム(運動器症候群)と呼びます。
つまり、骨、関節、筋肉等の運動器
の働きが衰え、自立度が低下し、
寝たきりになる可能性があり、要
介護の状態、要介護のリスクが高く
なるという状態です。(図2)
 


 (図2)




 ロコモティブとは、運動作用(機
関車という意味もあります)、シンド
ロームとは色々な症状の集まりと
いう意味です。(図3)
 


(図3)




 日本は世界に先駆けて超高齢化社会に突入しました。これに伴って、整形外科領域
では、筋肉、関節、骨、神経などの運動器の障害が増加してきています。整形外科疾患
の入院時年齢は70歳代が最も多く、病気の内容としては変形性関節症(膝、股関節)、
骨粗鬆症、変形性脊椎障害等となっています。このことは日本人の平均寿命が延びたと
いっても、平均寿命に相当する80年間の終末期を健康で過ごすことが困難なことを示
しています。


 変形性関節症を示すレントゲン写真の異常を有する人は約4,700万人といわれて
います。又、要介護、要支援者も450万人に達し、その原因として運動器の障害が、
21.5%を占めています。これらのことから健康に暮らせる健康寿命を延伸するには
運動器疾患に対する予防が非常に大切だということが理解できると思います。

 高齢者では脊椎障害、変形性関節症、骨粗鬆症を一人で複数持っている患者さんも
多く、このような方は運動器不安定症予備軍、すなわち、ロコモティブシンドロームであり、
いつ運動器不安定症になってもおかしくないのです。医療現場ではその対応に困難を
覚えることも多数経験します。日本が超高齢化社会に突入したことによる変化が新しい
病態を生み出したと言えるでしょう。


 ロコモティブシンドロームの要因として
  1.変形性膝関節症 
  2.腰部脊柱管狭窄症 
  3.骨粗鬆症による脊椎の圧迫骨折、大腿骨近位部骨折などが挙げられます。


 ではどうしてロコモティブシンドローム(ロコモ)をみつけるのでしょうか。日本整形外科
学会では次の7つをチェック項目としています。
  1.2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。
  2.家でのやや重い仕事が困難である。
  3.家の中でつまずいたり、滑ったりする。
  4.片脚立ちで靴下がはけない。
  5.階段を上るのに手すりが必要。
  6.横断歩道を青信号で渡りきれない。
  7.15分ぐらい続けてあるけない。
                 (ロコチェック 図4)

                                                 (図4)


 これらの7つのチェック項目のうち、1つでも当てはまればロコモの可能性があり、今日
からでもロコモーショントレーニング(ロコトレ)をはじめる必要があります。このロコトレは
ロコモの程度を1から3に分類し、それによってやり方が多少異なりますので、整形外科
専門医に相談すると良いでしょう。(図5)
ロコモーショントレーニング


 基本的には片脚立ちとスクワットですが、その他のトレーニングとして水泳、ランニング、
ウオーキングなどが処方されます。


 こういったトレーニングの重要性は勿論ですが、要因となる変形性関節症、脊椎変形、
骨粗鬆症などに対する治療も重要です。ロコチェックで自分の骨、関節、骨粗鬆などの
状態をチェックし、当てはまる項目があれば、専門医に相談することをお勧めします。


 寝たきりで老後を過ごすのではなく、寿命が尽きるまで健やかに生きる健康寿命の
延伸が望ましい老後の姿であると思います。


     ※本文中のイラストは日本整形外科学会のHP「ロコモ」からの転載であり、
      転載許可を受けています。

 


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