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  医師 山内四朗
 
肘と手の痛みについて  

 

 


 日常の生活の中で、肘や手の痛みを経験することは多いと思いますし、整形外科診療のなかでこのような訴えで来院される患者さんも決して少なくありません。そこで今回は、肘、手の痛みをきたすような代表的な病気について述べたいと思います。


指の痛み

 怪我以外に指が痛くなることはあまり多くはありませんが、それでもよく見られるのがヘバーデン結節
《 けっせつ 》( Heberden = 英国人医師 )という病気です。 これは指の最も先の関節( D I P関節)が
腫れたり、痛んだりするものです(図1)、(図2)、(図3)。

 50歳以降で、指を多く使用する女性に多くみられ、変形を残すこともあります。原因は不明ですが退行
変性 《たいこうへんせい》 (加齢的)による関節症といわれています。この病気は数年で痛みが軽減する
ので、特に治療を要しませんが、痛みが強ければ、テーピングや、鎮痛剤の服用などを行います。似た
ような病気にブシャール結節 《 けっせつ 》という病気もあります。これは指先から数えて第2の関節(PIP
関節)に腫れと痛みを生ずるものです。ヘバーデン結節とほぼ同様の病気なので、痛みがなければ、特に
治療を要しません。これらの病気は関節リウマチと鑑別を要する場合もありますが、血液検査、レントゲン
撮影などで診断は容易にできます。



手掌(てのひら)部の痛み
 この部位で最も多いのは腱鞘炎 《 けんしょうえん 》です。物を握る動作を
多くすることが原因と考えられますが、原因不明の場合もあります。親指では
付け根の部分、2~5指では手掌でも指の付け根の近い部分に痛みがあり
ます。(図4)のように、×印の部位に痛みの出ることが多いようです。指の
曲げ伸ばしの際に痛みがあり、特に起床時に痛みがあって少し指を動かす
ことによって痛みが軽快します。
 指の曲げ伸ばしの際に指が引っかかるような現象があり、これを弾撥現象
《 だんぱつげんしょう 》 といい、この場合の腱鞘炎を弾撥指 《 だんぱつし 》
と呼んでいます。腱鞘は文字通り、腱を包む鞘 《 さや 》であり、手では、指を
曲げ伸ばしする腱を包むように存在します。繰り返し動作による慢性の機械
的な刺激によって炎症を起こし、痛みを生じたり、また腱鞘が肥厚して腱の
通りが悪くなって、弾撥現象を生じるのです。腱鞘炎の治療については、まず、
指をあまり使わないよう局所の安静をとることや、局所へのステロイド剤や
局所麻酔剤等の注射で症状が改善することが多いのですが、どうしても痛みが軽快しない場合や、弾撥現象を伴う腱鞘炎の場合には手術の適応となります。
肥厚した腱鞘の一部を切除するのが一般的な手術法で、手術後の経過は良好
です。


手首の痛み
 
 多くは関節包 《 かんせつほう 》の一部から発生し、ゼリー状
物質を含む袋状の嚢腫 《 のうしゅ 》です。なぜ出来るのかに
ついてはいろいろ説がありますがはっきりした原因はわかり
ません。多くは手関節の背側部に発生し、痛みのないことも
ありますが、手をついたときや、手首を曲げた時などに痛みを
感じます(図5)。痛みがなければ特に治療を要しませんが、
痛みが強ければ手術をすることもあります。ガングリオンの
多くは茎を持って関節包と連絡していることが多いので、茎、
関節包の一部をともに切除します。完全に切除をしても時に
再発することがあり、その意味では厄介な病気ともいえます。
また手関節のみならず、関節包のあるところにはどこでも
発生する可能性があり、痛みだけでなく、いろいろな症状を
呈することもあります。




 
 手関節の手根骨《 しゅこんこつ 》のうちの月状骨《 げつじょうこつ 》
という骨が壊死《 えし 》を起こす病気です。原因としては外傷、手を
よく使う職業上の機械的ストレスなどが考えられています。男性に
多い病気です(図6)。症状としては、手関節の痛みや腫れ、また関節
の動きが低下したり、握力の低下などが認められます。骨の病気
なので、レントゲン撮影で診断は容易です。
 月状骨の変形が進行する病気なので、その病期によって治療法が
異なります。相当病気が進んでもそれ程日常生活上で支障のない
ことも多いようです。


 手首の親指側の痛みや腫れ、ときに親指や前腕への痛みなどが
主な症状で、親指を伸ばしたり、広げたりする腱の腱鞘炎です( 図7)。
繰り返しの動作による慢性的な刺激、更年期や周産期の女性に多い
ことから、ホルモンとの関係も原因として考えられています。治療は
初期のものや、症状の軽いものでは、手首を固定して局所の安静を
保つことや、ステロイド剤等の腱鞘内注射を行いますが、どうしても
痛みの取れない場合には手術を行います。手術の予後は良好です。


肘の痛み
 肘で最も多い疾患は上腕骨外側上顆炎 《じょうわんこつがいそくじょうかえん 》です。肘の外側の突起を
外側上顆とよんでいますが、ここは前腕部の筋肉の付着部です( 図8)。手、前腕を無理使いすることに
よって、筋肉の付着部で炎症が起こることが原因のひとつと考えられています。 一般に40歳代の女性に
多く見られ、別名、「テニス肘」とも呼ばれていますが、必ずしもテニスが原因で発症するわけではなく、中年
の女性に多いことから、加齢的退行変性に加えて、腱付着部への慢性的な刺激(使い過ぎ)によって発症
すると思われます。
 症状として、肘外側から前腕にかけての運動痛と
上顆部の圧痛です。又、痛みのため握力の低下を
認めることもあります。
 治療としては根気強い保存的な療法が必要です。
まずは手、肘を使い過ぎないよう気をつけること、
シップ、薬剤、局所への注射、リハビリなどを行い
ます。又、肘のサポーターも有用です。これらに
よって、大部分の人は症状が軽快、消失します。
どうしても痛みがとれない時には手術療法も考慮
されます。
 肘の内側にも同じような突起があり、ここに痛み
を生じるものを、上腕骨内側上顆炎《 じょうわん
こつないそくじょうかえん 》と呼んでいます。一般に
少年期にみられるものを野球肘とよんでいますが、
外顆炎と同じく、野球が原因の全てではありません。
やはり、手、前腕の使い過ぎによって筋肉の付着部
での炎症が生じ、痛みを生じるもので、外顆炎と同じ
ような治療が行われます。

 

 以上、手、肘などに見られる主な病気について述べましたが、その他、手や肘などには多くの病気が
ありますので、痛みが持続するようであれば整形外科を受診するようお勧めします。


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