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  医師 山内四朗
 

大腿骨近位部骨折



骨頭 頸部 大転子 小転子
図1. 股関節のしくみ
   大腿骨近位部の骨折は高齢者人口の増加と共に益々発生頻度の増加がみられるようになってきました。大腿骨の近位部とは大腿骨の上の方で、股関節に接する部をいいますが、小転子、大転子、頸部、骨頭と名称がついています。(図1)のとおり、複雑な形態をしています。この部での骨折は筋肉のバランスの関係で一般的に「ずれ」を生じ、そのままでは歩行ができなくなるため、たとえ高齢者であっても手術を必要とすることが多くなるというのが特徴といえます。

 「A-O」の骨折分類法によってこの部をさらに転子部骨折、頸部骨折、骨頭骨折と分類することができます
(図2)。
転子部骨折を関節包の外側という意味で、大腿骨頸部骨折の外側型、頸部骨折を関節包の内側ということで内側型とも呼んでいます。それぞれのなかでもさらに骨折のタイプが異なります(図3)。
  転子部骨折 頸部骨折 骨頭骨折
図2. 骨折の部位(A-0分類)
  転子部骨折 頸部骨折
図3. 骨折のタイプ(A-0分類)
 

 それぞれの部位、骨折のタイプによって手術のやりかたが異なりますし、術後の経過、予後も異なってきます。内側型、外側型の骨折は高齢による骨粗鬆症がベースにあり、ごく簡単な転倒によって生じることが多いのです。
 図4をみますと、50歳台から少しずつ骨折が目立ち始め、その後加速度的に増加して、80歳台でピークに達することがわかります。
 屋内での受傷が2/3を占めており、受傷の原因としては立った高さからの転倒が23,899例と最も多く、高齢者ほど軽微な外傷で骨折を生じていることがわかりました。(図5)


図4. 確定症例数
(平成13年3月 日本整形外科学会骨粗鬆症委員会調べ)
  大腿骨頚部骨折の受傷原因
図5. 屋内の受傷 60%

 これらの調査からも大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症が基礎にあり、骨の脆弱化によりごく簡単な転倒によって引き起こされるということをあらためて理解できます。
 女性に多い理由として骨粗鬆症は女性ホルモンの影響を受けるため、閉経後に骨の脆弱化が進むことが原因と考えられます。
 骨折にたいする治療法として特別な例を除いて、手術による内固定を行い、早期に座位、立位をとられてリハビリを進めていきます。

 先ほどの調査結果でも内側、外側型いずれも90%以上に手術が選択されています。どのような手術が選択されるかは各々のケースによって異なりますが転子部の骨折にたいしては「コンプレッション ヒップ スクリュウ」法が代表的なものです。これは深い螺子山を持つスクリュウとプレートの組み合わせで骨折面に強い圧迫力を加え、強固な固定を得る方法です。(図6・7)。
 
図6.
 
図7.
 
図8.
 
 また頸部骨折にたいしては安定型のものには同様の「ヒップスクリュウ」を、不安定型には「人工骨頭置換術」を行うことが多いようです(図8)。
  手術後の経過について調査結果では約2カ月間の入院を要しています。退院時の転帰として、軽快したものは77%、不変5%、死亡4%となっています。また、1年後の予後調査では生存が72%、死亡が10%、不明が18%となっています。術後1年以内に約14%の人が死亡しているということになりますが、高齢者であるために、心臓、肺、内分泌系統の合併症を有する方が多く、(術前に合併症のない方は10%にすぎません)死亡率が高くなっていると考えられます。
 骨折を起こした時には、患者さん本人の肉体的、精神的ダメージは勿論重大ですが、治療にたいする医療費も莫大なものになります。患者さん一人の治療費は約2カ月の入院で凡そ200万円と見積もられますので、患者さんを仮に4万人としますと年間約800億円の治療費がかかることになります。このようなことを考えますと健康面だけにかぎらず、財政面からも骨折を起こさないように予防していくことが大事です。
 それではどのようにして予防すればいいのでしょうか。
 先ずは骨粗鬆症にならないように普段から気をつけることです。近位部の骨折に限らず、高齢者の骨折は骨粗鬆症がベースにあるので、軽微な外傷によって簡単に折れてしまいます。特に女性の場合、50歳以降更年期になると女性ホルモンの減少によって骨粗鬆症化が進みます。1年に1~2回、定期的に骨密度を測定し、骨粗鬆症がみつかればその治療が必要となります。骨粗鬆症を改善する薬剤は多岐にわたってあり、それぞれ治療効果が認められています。同時に適当な運動や食事にも注意し、骨塩量を増加するよう工夫したいものです。
 2つ目は転倒しないように充分気をつけること。特に屋内の障害物をなるべく減らしてバリアフリーとし、廊下、浴室、トイレなどに手摺りなどを取り付けて高齢者が暮らしやすいよう配慮します。高齢者にとってはそこに置いてある座布団でも障害物になり得るのです。
 今後、日本は益々、高齢化社会に突入していきます。それに伴って高齢者骨折の患者さんも増加していくことが予想されます。以上のような予防法で万全であるとは言えませんが少しでも骨折を減らす努力をして、高齢者の方が健やかに暮らせるようにしたいと考えています。

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