医師が話す整形外科の病気

 

  医師 山内四朗
股関節の人工関節について

   

 過去の文集では、膝の人工関節の手術について書いたことがあります。
まだ当院で手術を始めた頃で、神戸に研修に行ったことや、それをもとに
始めた検査などについて紹介させて頂きました。実は同じ時期からもう一つ、
人工関節の手術を行なっています。それが股関節の人工関節、人工股関節
置換術です。

 股関節に痛みを訴える人は、膝が痛いという人よりは少ないですが、やはり
それなりにおられます。膝が悪い人は「膝が痛い」というのに対し、股関節が
悪い人は、必ずしも「股関節が痛い」とは言いません。それよりも「太ももから
膝が痛い」と言う人が多い印象です。この理由として、股関節は体の深部に
存在すること、股関節が悪くなるということが(膝と比べて)あまり知られて
いないこと、などが考えられますが、はっきりはしていません。そのため
他院で坐骨神経痛と診断され、その治療を受けても良くならないと言って
当院に来られる方もいました。当院ではこのような誤診を防ぐため、腰痛の方の
レントゲンを取る際に、診断に影響しない範囲で少しだけ股関節が写るように
しています。このようにしてからは、股関節の変形を見逃すことはありません。

 股関節が痛くなる原因は様々ですが、ここでは関節の変形、変形性股関節症に
ついてお話しします。これは何らかの原因で関節の軟骨がすり減り、骨が変形し
痛みが出る疾患です。原因はいろいろあり、徐々に関節が変形し、それに伴い
痛みが増大し、歩き始めが痛い、長く歩けない、股関節が伸ばせない、開けない、
などの症状により日常生活がままならなくなります。どの段階で手術を行うのかは、
その痛みの程度や社会的立場により様々ですが、「したいことが出来なくなってきた」が
一つの目安かと思います。

 手術では痛んだ股関節を一旦切除し、金属でできた人工の関節に置き換えて
再建します。手術時間は2時間程度で、出血もそれほどありません。術後の
リハビリでは、翌日からすぐに歩いてもらいます。寝ている時間が長いほど
体力が落ちますので、立つだけでもいいので体を起こすようにします。多くの方は
歩行器で廊下をくるっと 一周できることが多く、これで自信がついて、その後の
リハビリが順調に進んでいます。

 手術はただすればいいというわけではありません。術前からの綿密な計画が
必要です。まずは内科的な精査、もしくは内科の主治医がいれば必ず相談します。
そして体重が多い方はダイエットしてもらう、筋力が落ちていたり、股関節が固く
なっている方はリハビリで少しでも改善しておいてもらうことは特に重要です。
手術の際には、人工の関節をできるだけ予定通り、精度は2㎜以内、5度の
許容範囲内に設置することが求められます。そのため手術中にレントゲン写真を
撮って、設置が範囲外であればやり直さなければなりません。そこで常にこの精度を
保つために導入したのが「AR Hipナビゲーションシステム」です。これは手術を
支援してくれる器械で、医療器械でありながらiPhoneを使って設定できます。
これにより人工の関節の設置精度は向上し、手術時間が短縮されました。痛みは
術後のリハビリには大敵です。当院では術前より内服を処方し炎症・浮腫を
緩和するようにしており、術中にはカクテル療法という痛み止めを行って対応して
います。さらに、以前にも皆さんに紹介したことがあるERAS(イーラス:術後回復
強化)を行なっています。これは手術日をできるだけ「非日常にしない」ということと
考えてもらえればいいと思います。点滴はできるだけ短い時間に留める、手術前後の
飲食制限は出来るだけ短くする、などなど、いくつかの工夫のポイントがあります。
これにより手術の後の生活をより快適に、よりいつもらしく過ごすことができるように
しています。

このようにして、これまでに多くの方が当院で人工股関節置換術を受けられ、
現在は定期的に通院されています。股関節を内側に捻らないようにする、
など気にして頂きたいことはありますが、日常生活はおおむね問題なく
過ごすことが出来ています。この手術は「切れ味がいい」手術の代表で、
ほとんどの方で痛みがほぼ無くなるのが特徴です。

人工関節の手術は、今ではどこでも行われる手術になりました。私が
医師になった頃は、まだ一部の総合病院でしか行われておらず、こうして
開業医で行えることは夢のようです。ただ、それだけ医療レベルが上がった
とは言え、皆さんからすればかなりの覚悟を要する手術であることに変わりは
ありません。当院では、まずは正しく人工関節の手術を知ってもらうために、
実際に手術に入る看護師による説明会も準備していますので、気軽に
相談して頂ければと思います。過去の文集では、膝の人工関節の手術について
書いたことがあります。まだ当院で手術を始めた頃で、神戸に研修に行ったことや、
それをもとに始めた検査などについて紹介させて頂きました。実は同じ時期から
もう一つ、人工関節の手術を行なっています。それが股関節の人工関節、人工
股関節置換術です。


 
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次回予告!
2024年 10月30日に更新します
どうぞお楽しみに!!



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