ー 番外編 ー
医師 山内四朗
リンパ浮腫の治療を始めました
リンパ浮腫について、一体何のことやらと思われる方も多いのかもしれません。
これは整形外科領域ではなく、主に乳腺外科や婦人科領域で多く見られる疾患です。
私の専門は整形外科で、特に「がん(正確には肉腫)」ですが、金沢大学病院で
勤務していた時はリンパ浮腫についてはあまり知りませんでした。その後、この病気に
悩む方がいることを知り、約5年前から当院でも治療を始めることを検討していました。
そして昨年、ついに治療を開始することができました。
リンパ浮腫とは、「リンパ系の機能不全や輸送障害による外的(もしくは内的)な
臨床症状」と国際リンパ学会で定義されています。私たちの体には、血液が
流れているシステムがあります。このシステムには、心臓から体の各部へ
血液を送る「動脈」と、体の各部から心臓へ血液を戻す「静脈」が含まれています。
しかし、動脈から送られる血液の全てが静脈で戻るわけではありません。実は、
血液の約10%は「リンパ管」と呼ばれる別の管を通っています。リンパ管は通常、
目に見えない小さな管です。
がんの手術でリンパ節(リンパ液をろ過する小さな組織)を取り除くことがあります。
この手術によってリンパ管の流れが妨げられると、リンパ液が体の一部に溜まり、
腫れることがあります。特に、腕や足にこのような腫れ(浮腫)が現れることがあります。
これが「リンパ浮腫」と呼ばれる状態です。
リンパ浮腫の重症度は、0期から1期、2期、2期後期、3期に分類され、
3期になると足が象のように腫れ、皮膚は硬くなり色素沈着も見られます。
この状態になると日常生活に大きな影響が出て、歩行も困難になります。
この病気はあまり知られていません。その理由としては、リンパ節郭清を受けた
全ての患者が発症するわけではなく、発症が手術から数年後に見られることが
挙げられます。がんの手術を受けた方は、手術の成功、化学療法の乗り越え、
再発の不安など、数年間苦しい思いをされます。そして5年ほど経過し再発の不安から
解放された頃には、手術時に説明を受けたリンパ浮腫の発症可能性について
忘れてしまっています。実際にリンパ浮腫が発症すると、最初は軽い浮腫みから始まり、
徐々に悪化していくため、治療が後手に回りがちです。また、気軽に相談できる窓口も
少なく、放置されることも多いです。
医療側にも問題があります。それは、リンパ浮腫を完治させる方法がないと
いうことです。治療の基本は「日常生活指導・スキンケア・用手的リンパドレナージ・
圧迫療法・圧迫下での運動療法」の5つで、これらは完治を目指すものではなく、
リンパ浮腫と一生付き合っていくためのものです。最近ではリンパ管静脈吻合などの
手術も行われていますが、それでも前記の治療を一生涯続ける必要があります。
当院では、専門のスタッフがリンパ浮腫の治療を開始しました。この資格を取得
するためには、厚生労働省後援の研修を座学33時間、実習67時間以上受ける
必要があります。まだ始めたばかりですが、福井県立病院や名古屋を拠点とする
THAC医療従事者研究会、世田谷の広田内科クリニックなどと連携を取りながら、
知識をアップグレードしています。私も座学のみですが、この資格を修了しています。
当院でのリンパ浮腫ケアは1日1名の完全予約制です。対象は乳がんと
婦人科がんの手術でリンパ節郭清後や放射線治療後にリンパ浮腫を
発症した患者です。治療を受ける前には前医からの紹介状が必要で、
他に病気が隠れていないかを確認します。その後、私が診察を行い、
予約を取ってからが治療スタートとなります。
一人一人の悩みに向き合い、改善策を追求し、丁寧な治療を行っていきますので、
お悩みの方がおられましたら、まずは主治医もしくは当院にお気軽にご相談ください。
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2025年 10月29日に更新します
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