医師が話す整形外科の病気

   

  医師 山内四朗
「肉離れ」について

   

 今回は「肉離れ」について詳しくお話しします。スポーツをしている方なら
、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。実際に経験したことが
ある方もいるかもしれません。「まさか自分が!」と思っても、急なダッシュや
ストップ動作で簡単に起こってしまうのが肉離れです。


 肉離れとは、筋肉が急激に引き伸ばされることで筋線維が損傷するケガの
ことです。特に太ももの裏(ハムストリング)やふくらはぎ(腓腹筋)に起こりやすく、
全力疾走や急なストップ動作の際に発生しやすいです。例えば、短距離走で
スタートダッシュを切った瞬間や、サッカーで急に方向転換したときなどに
起こることが多いです。

 肉離れが起こると、筋肉に「ブチッ」とした感覚を伴う激しい痛みが走ります。
「まるで誰かに蹴られたような感覚がした」と話す人もいるようです。その後、
腫れや内出血が現れ、場合によっては歩行が困難になることもあります。
早期の適切な対応が、回復を左右する大きなポイントになります。

 肉離れを適切に治すためには、その重症度を判断することが大事です。
安静にしすぎれば競技への復帰が遅くなりますし、逆に安静にしないと
再発してしまうこともあります。そのためにMRI(磁気共鳴画像)を用いた
検査を行います。MRIでは筋肉の内部の損傷具合を詳細に確認できるため、
治療方針や復帰までの期間を予測する上で非常に役立ちます。

 MRIの結果によって、肉離れは3つのタイプに分類されます。

 Ⅰ型は筋内(筋線維間)に出血が見られるものの、筋線維や腱膜の損傷は
なく比較的軽症です。「痛いけれど、なんとか歩ける」レベルです。

 Ⅱ型は中等症で、筋腱移行部、特に腱膜の損傷が認められます。
MRIでは明らかな損傷や出血が確認され、痛みも強く、歩行が困難になることが
多いです。「これはもう、松葉杖がないと無理…」と感じることが多いレベルです。。

 Ⅲ型は重症で、腱性部(筋腱付着部)の完全断裂や引き抜け損傷を伴います。
「もう、これはさすがにやっちゃったな…」というレベルです。

 肉離れを早く治すためには、まず「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」を行い、
腫れや炎症を抑えることが大切です。「とにかく冷やして安静!」というのが
鉄則ですが、やりすぎて凍傷にならないように注意しましょう。受傷直後は
無理に動かず、アイシングをして炎症を抑えます。包帯やサポーターで適度に
圧迫し、可能であれば患部を心臓より高い位置に保つことで腫れや内出血を
最小限に抑えることができます。この初期対応を適切に行うことで、回復が
スムーズになります。

 競技復帰の目安はMRIによる分類によって異なります。Ⅰ型の軽症型では
2週間程度で復帰が可能です。Ⅱ型の中等症型では6週間ほどの回復期間が
必要とされ、3週目にMRIで回復の評価を行います。Ⅲ型の重症型では
6カ月以上を要し、3週間ごとにMRIで経過を観察しながら慎重に治療を
進めていきます。しかし、これはあくまで目安であり、個々の回復スピードや
リハビリの進み具合によって異なります。特にⅡ型以上の肉離れでは、
焦って復帰すると再発のリスクが高くなるため、十分なリハビリが重要になります。

 肉離れは一度経験すると再発しやすいケガの一つです。そのため、予防のための
対策が不可欠です。十分なウォームアップとストレッチを行い、筋肉を温めて柔軟性を
高めることが負担を減らすために大切です。「準備運動なんて適当でいいや」と
思っていると、痛い目にあいます。また、特にハムストリングスやふくらはぎの筋力を
強化することで、再発防止につながります。リハビリ後はいきなり全力でプレー
するのではなく、軽い運動から徐々に負荷を上げていくことも重要です。


 肉離れはスポーツをする人にとって身近なケガですが、適切な診断と 治療を
行えば、しっかりと回復することができます。MRIを活用することで、損傷の
程度を正確に把握し、復帰までのプランを立てることができます。無理をして
早く復帰しようとすると、再発のリスクが高くなります。「もう大丈夫かな?」と
思ったときこそ慎重になることが大切です。焦る気持ちは分かりますが、「ここで
無理をすると、また振り出しに戻る可能性大!」と思ってください。しっかりと
相談しながら、万全の状態で復帰を目指しましょう。

 少しでも参考になれば嬉しいです。お大事にしてくださいね。


 
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次回予告!
2026年 10月28日に更新します
どうぞお楽しみに!!



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