Real-time In Vivo Dual-Color Imaging of Intracapillary Cancer Cell and
Nucleus Deformation and Migration
-生体内毛細血管における、2色を有する癌細胞の変形と遊走について-

 

現在行われている癌の研究の多くは、癌細胞が植え付けられた100匹ほどのマウスから定期的に5~10匹を犠牲死させて、癌の進行や薬の効果などを調べています。犠牲死させる理由は、癌はかなり大きくならないと目には見えないからです。目に見えないような癌細胞を調べるために、マウスの臓器を取り出して特殊な方法で染めます。これはマウスを生かしたままでは決して出来ないことです。
それでは、もし癌細胞が光って見えたらどうでしょう? もうマウスをどんどん犠牲死させていく必要はありません。毎回同じマウスを観察すればいいので、必要なマウスは数匹で十分です。しかも記録をきちんと残しておけば、前回と比べてどう変化したのかがわかります。この方法では、マウスがたくさんいらないこと、癌の変化が目で確認できることが利点として挙げられます。私たちは癌に色をつけるために、クラゲやイソギンチャクの「光る」遺伝子を癌に入れて、光る癌細胞を作りました。この癌細胞は特殊な青い光を当て、フィルターを通して見ると光って見えます。

さて、癌が転移をする経路はいくつかあります。血管、リンパ、直接浸潤、播種などです。血管を使った血行性転移は多くの癌に見られる転移の仕方で、一度血流に乗った癌細胞は全身のどこにでも行くことが出来ます。最初に癌細胞は原発巣にて血管内に浸潤します。血管に入るとそのまま血流に乗って、多くは肺に達しますが、肺もすり抜けて全身に広がることもあります。やがて細い血管に達すると、そこで、癌細胞は詰まります。そこから血管の外に脱出をして足場を築き、増殖して転移巣を形成します。
しかしこの過程を見たことがある人はいません。多くの実験では「癌細胞を注射する」というINと、「転移巣が見えた」というOUTしか分からないのです。このINとOUTの間、つまり転移の過程はブラックボックスといわれ、長い間見ることの出来ない領域でした。
この領域にどれほどの転移に関する情報が隠されているのでしょうか? 今一般に行われている抗癌剤は、いわゆる殺細胞効果を狙ったものであり、基本的にはすでにコロニーを形成している癌に使われます(最近は癌を殺すのではなく、動きを抑えるという使われ方もしています)。ですが一旦コロニーが形成されると、癌細胞同士は協力し合い、自分たちに都合のいい環境を作ります。結果として抗癌剤が効きにくくなることもあります。
それではこうなる前、つまり転移の過程において何とかできないかと考えてみてはどうでしょう? 血管内を流れている癌細胞を弱らせる、詰まってもそのまま動けなくする、血管に出てしまってもそれ以上増殖させない。方法はいくつもありますが、このような新しい考えに基づいた治療実験は世界中で進行中です。
しかし未だに克服できない問題点があります。それはその転移の過程、ブラックボックスを見るモデルがない、ということです。もちろん見えない過程について実験をすることは可能です。しかし見えて初めて分かることはとても多いのです。

このブラックボックスのふたを開けるために、私は新しいモデルを立ち上げました。観察の場に皮膚を選び、先ほど紹介した光る癌細胞をマウスの血管に注射し、その後の動態を調べました。それにより生きたマウスにおいて、癌が血管内を流れ、詰まり、そして血管の外に出て行く様子を動画に収めることが出来ました。その様子はこれまでの教科書と同じ部分もありましたし、また違っていることもありました。

見えないものを見えるようにすること。これは一見簡単そうですが、とても難しいことです。そして見えるようになったことで受ける恩恵ははるかに大きいのです。というのも、私が先ほど紹介した癌の転移の順番ですが、これは断片的な情報から理論が構築されました。どうして断片的かというと、以前は癌が見えなかったので、マウスを次々に殺して染めて見ていたからです。マウスを殺した時点で癌の動きも止まり、そこからは動的な情報は一切得られません。しかしその情報を無限に蓄積し、先人たちは癌の転移の理論を築いたのです。
それでは癌細胞が見えたら? もう多くの情報を蓄積する必要はありません。見えるのですから、見えるものが真実です。ごまかしようもなく、また修飾する必要もありません。

このモデルには多くの欠点があり、未だに完璧ではありません。そもそも完璧なモデルなどは存在しないのかもしれません。しかしこの広い癌研究領域の中で、このモデルを必要としてくれる人がわずかでもいて、そしてその結果、癌が少しでも根治できるような方法が発見されれば、私としてはこれ以上の幸せはありません。


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