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 赤ちゃん来い来いと思っていた。 思う程落胆は激しく焦らずいこうとのんびり
構えた途端、私のお腹にやってきた。 勝手な妄想だが妊娠って〝突然ウッ〟
と口を押さえかけ込む。 主人に「まさか・・・」と言われ「あなた!」と答える。
やったな!アハハウフフとなるもんだと思っていた。 しかし現実は「なんか
わからんけど赤ちゃんできたかも」 「え・・・?あ、うん。え?え?」


 全く気持ち悪くならない。 むしろお腹が空く。 楽勝 ? とタカをくくっていたその
翌日、いきなり吐いた。 その日から私の妊婦ライフは幕を開けた。吐き通しの
毎日。 「絶賛、つわり月間!」食べられず、飲めず、寝て過ごし全身は毛玉
だらけ。 自分の運転で酔い、主人が臭い。 朝、「おはようございます」と同僚に
挨拶だけして「お疲れ様でした」と帰宅する。 顔色が青白さを通りこし黄色に
なった時、入院する?と言われ収容。


 つわりとは不思議なもので、これだけゲロゲロしてたにも関わらず、「気持ち
悪い・・・だが肉が食べたい」とか揚物信者になったことだ。コロッケ様々である。
コロコロ食べたい物の好みが変わるたび、主人はせっせと作る。 夜中トマト味
の何かが食べたいと言えばコンビニに走り、食べた私からこれじゃないと
言われる。 全く覚えていないけど。


 そんなある日、夫は久しぶりに飲み会に出掛け、ベロベロになって帰ってきた。
トイレの住人となり二日酔い。青い顔して私にポツリと「君はこんなに辛い思いを
してたんだね・・・毎日仕事にも行ってえらかったね」と。 正直一緒にするなと
思ったが、そうだよと返しておいた。そんなことがあったからか、主人は根気よく
真冬に桃が食べたい、スイカが食べたいと言う妻の相手をしてくれ、毎夜せっせ
とフライドポテトを揚げてくれた。あの頃を振り返ると主人は遠い目をする。


 ようやく安定期を越すと、少し楽になり買い物が楽しくなってきた。 かわいい
ベビー服を見ては理性と闘う。そんな中、あるものが気になっていた。 ゴルフ
ボールである。 出産経験のある方ならわかるだろう。 陣痛はすごく痛いらしい。
しかもお腹じゃなく腰とかお尻が痛いらしい。 そんな時ゴルフボールをお尻に
ぐぐっとあてると楽らしい! 主人がそのあてる係りだ。 決まり。
 
 少しずつ準備が整い臨月に入ると、いつ産まれてもいいよと太鼓判をもらう。 カレンダーとにらめっこする
毎日。 ○日かな?△日になるといいなーとお腹に話し
かけボテボテ歩く。

 最後の検診になった日も予兆はなく、まだだろうと思っていたがその2日後、
何故か急に焦り始めた。 銀行へ行かなきゃ! 買い物しなくちゃ! あれも!
コレもして! お腹空いた!菓子パン食べなきゃ!とフル活動し、ウォーキング
までして夕方コンビニにパンを買いにいった。 同僚のTナースにバッタリ会い
「どうかねー」と話した。 出産ジンクスでオロナミンCを飲むとお産が来ると聞き、
物は試しと購入。 お風呂上がりにキューッと一杯やろ ? とルンルン気分で帰宅。
そして夕食後シクシクと痛みだした。


 張ったかな ? と思いつつ数分毎にくる痛みにまさか…と期待。 やはり
ぴったり 数分毎。 病院に電話すると「あー陣痛だね。 もう来てねー。」と先生。
始まった!と意気込む。 主人に話すと「えらいこっちゃ!」と一言発して私の
バッグを持ちかけ下りていった。 大きいカバン持てや。 この時はまだまだ
余裕だった。 後で飲もう とオロナミンCをカバンに忍ばせるくらい余裕だった。


 病院に着き処置が済まされ、ベッドで休むが痛みの波はどんどん来る。
隣で主人がTVを見ていた。 見たかったんだね。 最終回だしねそのドラマ。
でも妻はTVどころじゃないのよ。 腰さすらんかい。 次第に痛みが強く
なってくる。 主人のイビキも大きくなってくる。 帰って寝なよ。 だが主人は
起きて居るという。


 陣痛はやはり腰だ。 ドラマでお腹を押さえ産まれるーというシーンがあるが、
あれは嘘だ。 本当の女優なら腰を押さえるはずだ。 くだらないことを考えチラリ
と主人を見る。 お腹空いたーだって。 オロナミンC飲まれた。 一生忘れない。
ゴルフボールよりも遠くに飛ばせそうだ。 早朝4時を廻る頃には私は一人で
闘っていた。スヤスヤ眠る主人はもうオブジェと思うことにした。 2?3分毎にくる
痛みに耐え頑張れと自分を励ます。 先生が診るもまだまだと。 うそーん。
痛みからか、つわりかゲロゲロ・・・。 一旦帰宅し、さっぱり石鹸の香りをさせて
登場した主人が処理してくれるが、昨日のモロヘイヤだねとかいらん報告を
してくるがどうだっていい。 私の子宮口はガッチリ仕事しており進まず、憔悴する
私を見て先生は無痛分娩をすすめてきた。 呼吸法を指導されるが痛いもんは
痛い。 ヒッヒッフーがヘーヘーホーになる。 そして数時間後心も折れ、無痛で
いくことになった。 麻酔をするとこれが全く痛くない。 本当に驚いた。 赤ちゃん
の心音が聞こえるモニターをつける。 ドコドコドコという BGM を聞きながら、
進まなかったら切るね♪ とサラッと先生は言って去っていった。 痛みが楽に
なればこっちのもんだ。 のんびりすごし母親と談笑。 と急にドコドコという音が
ドコドコドコ・・・と小さくなり・・・止まった。


 ピーッとアラームが鳴り、ナースコールすると慌しく先生とナースが来て処置
していく。 戻った。 赤ちゃんが下りてきているのに子宮口が開かず疲れてくる
のだろう。 時々ゆっくりになる心音に動け動けと祈ることしかできず、生きた
心地がしなかった。 長いようなすぐのような時間をすごした。 少しずつ体の
準備が整いだす。 夕方になって「よし進んだ。 産んじゃおう!」と神の声。
バババッとベッドは分娩台へと変わる。 痛み(張り)が来たらイキむのだが2?3回したところでお腹に力が入らなくなる。愕然。 腹筋鍛えておけばよかった・・・
後の祭り。 間隔は一分くらいだが、その間異常な眠気がやってくる。 ZZZ・・・
フガッ!フーン!!ZZZ・・・とくり返す。 赤ちゃんが出そうで出ない。 吸引。渾身の
力を込めてイキむ。 2回程しただろうか、その時、ズルッ!スポン!
「ハイ産まれたよー」


 フギィィホエァホエァ・・・赤ちゃんがいた。
小さい、なんて小さい。 放心。


 私のお腹にいたのは君か。 君だったのか。
よく来たね。

 


 いつも、その瞬間をシミュレートしていた。 でも、胸が詰まり「無事に産まれて
くれてよかった。 ありがとう。 ありがとう。」としか言えなかった。 主人が私の
手を握り 「先生男ですか?女ですか?」 「男の子!」横目で主人を見ると
ぐいっと涙をふいていた。


 翌日からのお世話頑張るぞ!とヤル気一杯だったが麻酔が切れてからは
身体中の痛みに加え、貧血と股の痛みに便秘で下半身がどうにかなりそう
だったが、息子の側に行けば気にならなかった。すべてが愛おしかった。 と、
感慨にふける間もなく嵐の子育て編へとすすんでいく。


 子どもを授かってから私は沢山泣いた。
強くもなったが泣き虫にもなった。 これからも
この子には悲しみだったり喜びだったり、
たっぷり泣かされるのだろうと思う。 が、
それはなんて幸せなことか。



 ただ一つ健やかに。かわいいお尻を拭きながらそう願う日々である。


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